診療グループ

びまん性肺疾患グループ

業 績

臨床

 「びまん性肺疾患」とは、胸部レントゲンや胸部CT画像において、病変が両側の肺に広範に広がった肺疾患を指します(図1左)。その中で、主に肺の間質を炎症や線維化病変の場とする疾患を間質性肺疾患といい、特発性間質性肺炎、サルコイドーシスといった指定難病や、膠原病に伴う間質性肺疾患、過敏性肺炎、そして抗がん剤などの薬剤による薬剤性肺炎などが含まれます。近年の人口動態統計において、間質性肺疾患は肺がん、肺炎・誤嚥性肺炎に続き、全体の上位死因に含まれるようになり、決して稀な病気ではないことが明らかとなりました。臨床現場において、間質性肺疾患を画像所見のみでは確定診断に至ることは難しく、問診・血液検査や気管支鏡検査などの検査に加えて、膠原病内科や皮膚科へのコンサルテーションを行い、適切な診断・治療へ導くことが重要です。当科では病理診断に有用なより大きな肺組織の採取を可能とするため、限られた施設でしか実施されていない気管支鏡検査を用いたクライオ生検を導入しています。さらに呼吸器内科医、肺病理専門の病理診断医・胸部画像専門の放射線科医が集まって多分野による集学的検討(Multidisciplinary Discussion: MDD)を毎月一回開催し(図1右)、より適切な診断ができるように取り組んでいます。最近は膠原病内科の先生にもご参加いただけるようになり、さらに充実した体制になりました。
 MDDで診断・治療方針を決定し、常に最新のエビデンスを反映した最適な治療を患者さんに提供できるよう日々の診療に取り組んでいます。加えて肺高血圧症の診断・治療について循環器内科と、呼吸リハビリテーションについてリハビリ部と連携を深め、併存症のより良い治療・管理につなげています。この疾患群には難治性疾患が多く、十分な治療法が確立しているとは言えないため、新規治療の開発にも積極的に携わっています。特に、今後保険収載予定のホスホジエステラーゼ4B阻害薬に関する国際第3相試験では国内有数の症例登録を行いました。現在も複数の新規薬剤の治験に参加しており、少しでも良い治療機会を患者さんに届けられるよう努めています。

<図1>

様々なびまん性肺疾患
多分野による集学的検討
(Multidisciplinary Discussion: MDD)

臨床研究

 福岡県下4大学とその関連病院、計29施設によるネットワークを形成し、特発性間質性肺炎、COPDの慢性呼吸器疾患 1000症例を集積して前向きコホート研究を行っています(Respir Investig. 2020; 58: 74-80)[喫煙関連呼吸器難病に対する前向きコホート研究]。5年間の観察期間を終え、本邦最新の特発性肺線維症患者の5年生存率は50%を超え、諸外国の最新のデータと遜色ないことを報告いたしました(BMJ Open Respir Res. 2023; 10(1): e001864.)さらに本コホート研究に参加いただいた患者さんの血液を用いて、遺伝子多型が特発性肺線維症の発症や生存期間に関与するかを検討しました。欧米で疾患発症と関連がある遺伝子多型が日本人においても関連があることがわかり、さらにはその遺伝子多型が生存期間とも関連することを報告しました(図2:Respirology. 2026; 31(1): 42-52.)。
 また、間質性肺疾患患者さんの傍脊柱筋筋肉量も生存と関連することを見出し(BMC Pulm Med. 2025; 25(1): 468.)、本コホート研究から新たなバイオマーカーについて報告しました。今後も、画像や血液を用いて更なる検討を継続していく予定です。

<図2>

特発性肺線維症におけるSNPsと疾患感受性や生存の関連性

 特発性肺線維症や進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PPF:progressive pulmonary fibrosis)は予後が悪性腫瘍に並ぶほど悪く、少しでもよい治療法の開発が求められています。そこでPPFに対する治療法の新規エビデンスの構築のため、医師主導特定臨床研を実施し、未治療のPPF症例に対して、抗線維化薬(ニンテダニブ)と抗炎症治療(ステロイド・タクロリムス)を初期治療として導入することが、高い継続率を保って有効な治療効果が得られることを報告しました(表1)。今後も積極的に臨床研究を立案し、びまん性肺疾患診療においても新たなエビデンスの創出に貢献していきます。

試験名 研究代表医師・事務局 発表論文
未治療Progressive pulmonary fibrosisを対象としたニンテダニブ・抗炎症治療同時導入療法の第Ⅱ相試験(TOP-ILD) 研究代表医師:岡本勇
研究事務局:坪内和哉
ERJ Open Research. 2026 Feb16;12(1):00697-2025.

基礎研究

 間質性肺炎への治療薬はまだ十分ではなく、さらなる病態解明と治療法の開発が求められています。当研究室では、細胞・動物モデルを扱う基礎研究から、主にヒトを対象とした臨床研究へとつながるトランスレーショナル研究を目指しています。2026年度のびまん性肺疾患研究室には7名の大学院生が在籍し、5名が呼吸器内科学分野において・気道上皮細胞の分化や増殖、・肺線維症に特異的な肺線維芽細胞の機能解析、・肺高血圧症の進展に関する病態解明、・肺線維症の空間トランスクリプトーム解析(図3)といったテーマで間質性肺炎の病態解明に取り組んでいます。また2名は九州大学生体防御医学研究所へ出向し、最先端の基礎研究に励んでいます。このつながりを基に臨床検体を用いた研究と生体防御医学研究所の最新の基礎研究手法をコラボレーションさせることでて、間質性肺炎の発症や進展に関与するメカニズムを明らかにしていきたいと考えています。また昨秋から1名が米国(The University of Pennsylvania)へ留学して研鑽を積んでいます。国際学会へも積極的に参加し、グローバルな視点で研究活動が展開できることを目指しています。

<図3>

肺線維症進行に関わる細胞間相互作用の解明
事業名 役割 課題名
科学研究費助成事業
若手研究
2023年度~2025年度
研究代表者
坪内和哉
特発性肺線維症および合併高血圧症における血管内皮細胞の細胞老化の役割の解明
科学研究費助成事業
若手研究
2024年度~2028年度
研究代表者
髙野智嗣
特発性肺線維症における基底細胞上のSignal Regulatory Protein αの機能解明
科学研究費助成事業
基盤研究C
2024年度~2026年度
研究代表者
大坪孝平
特発性肺線維症におけるSFRP2の機能解析と新規治療開発
科学研究費助成事業
研究活動スタート支援
2024年度~2025年度
研究代表者
大坪孝平
Apelin-APJシグナルの機能解析と新規治療開発

終わりに

 間質性肺疾患は多岐にわたり、病態もまだ十分分かっていないため、診断や治療もまだまだ発展途上です。しかし、だからこそ、これからまさに発展していく領域だと確信しています。臨床現場で生まれたClinical questionを基礎研究や臨床研究を通じで解決し、小さな一歩ずつだとしても前進していくことが大切だと考えています。一人では難しいことでも、多くの仲間がいれば必ず実現できます。びまん性肺疾患に興味をお持ちの先生は、私たちと一緒に研究しませんか?充実した臨床・研究環境、豊富な症例、そして熱意ある仲間たちがあなたを待っています。あなたに出会えることを楽しみにしています!

びまんグループ 2025年4月 医学部百年講堂前にて