診療グループ

腫瘍性肺疾患グループ

業 績

臨床

呼吸器領域の腫瘍性疾患は原発性肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌)、胸膜中皮腫や胸腺上皮腫瘍と多様であり、当科ではこれらに対する薬物療法を主体とした治療を行っています。近年の薬物療法の進歩は著しく、適切な検査を行い、最適な治療を患者さんに届けることが重要になっています。特に非小細胞肺癌においては、癌の原因となっている遺伝子異常が多数発見されております。次世代シークエンス法やPCR法を用いてこれらの遺伝子異常の有無を同時に測定し、それらに対する分子標的治療薬を使用することで著明な効果が得られます(図1)。また、免疫チェックポイント阻害剤の効果も示されており、腫瘍性呼吸器疾患に対する重要な治療選択肢となっております。これら最新のエビデンスを反映した最適な治療を患者さんに常に提供できるよう日々の診療にあたっています。

<図1>

進行非小細胞肺癌の診断時の遺伝子検査(2023年5月現在)

呼吸器科における腫瘍性疾患の入院患者数は、2022年度で805名であり、これは呼吸器科入院患者の約8割を占めています(図2)。薬物療法が進歩しても、依然として腫瘍性呼吸器疾患は難治性であります。様々な課題が残されており、難治性呼吸器疾患の診療拠点として大学が果たすべき役割は益々大きくなっていると実感しています。日進月歩の肺癌治療を患者さんへ還元するのみならず、より優れた治療法の開発、新たなエビデンスを自ら構築していこうとする使命感を共有し、スタッフ、若い先生方の力を合わせて取り組んでいます。

<図2>

2022年度呼吸器科入院患者割合(1042名)

臨床研究

難治性疾患への新治療開発には倫理的、科学的に優れた臨床研究の計画とその実行が必須です。我々は、より良い治療法開発を目指し、施設共同臨床試験及び医師主導治験を立案・実施しております。直近3年間の成果を下記にお示ししますが、これらの臨床試験の結果は広く日常診療に還元され、一部は肺癌診療ガイドラインにも反映されております。

試験名 研究代表医師・事務局 発表論文
T790M陽性の転移性非扁平上皮非小細胞肺癌を対象としたオシメルチニブ単剤療法とオシメルチニブ/カルボプラチン/ペメトレキセド療法の無作為化非盲検第II相試験(TAKUMI) 研究代表医師 岡本勇
研究事務局 田中謙太郎
European Journal of Cancer
2021,149:14-22
既治療の進行・再発非小細胞肺癌に対するドセタキセルとnab-パクリタキセルのランダム化比較第III相試験(J-AXEL) 研究代表医師 岡本勇
研究事務局 米嶋康臣
Journal of Thoracic Oncology
2021,16(9):1523-1532
Clinical Lung Cancer
2022,23(7):585-592
HER2 exon20挿入変異陽性の進行・再発非小細胞肺癌に対するトラスツズマブ・エムタンシンの効果を検討する多施設共同第Ⅱ相医師主導治験 研究代表医師 岡本勇
研究事務局 岩間映二
European Journal of Cancer
2022,162:99-106
特発性肺線維症合併進行非小細胞肺癌に対するニンテダニブ+化学療法と化学療法単独を比較するランダム化第3相試験 (J-SONIC) 研究代表医師 岡本勇
研究事務局 大坪孝平
European Respiratory Journal
2022 5;60(6):2200380

加えて2022年度には、京都大学との共同研究により、脂質異常症薬として用いられているベザフィブラートを、免疫チェックポイント阻害剤使用時の抗腫瘍免疫増強薬として開発する医師主導治験の成果も公表しました。今後も当研究室では、独自の基礎研究成果に基づくシーズを用いた医師主導治験を実践し、成果を発表していきます。

試験名 研究代表医師・事務局 発表論文
既治療進行非小細胞肺癌を対象とした免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブとベザフィブラート併用の第I相医師主導治験 研究代表医師 岡本勇
研究事務局 田中謙太郎
Science Translational Medicine
2022 14; 14(675):eabq0021

更に当科では新薬開発を目指した企業主導の治験(治験:未承認の薬剤を用いた臨床試験)も積極的に行っており、2023年4月時点で39治験により、九州大学病院診療科で最多の161名の被検者に治療を実施しております。これまでに当科が参加してきた企業主導治験の結果を基に実際に承認に至った薬剤、治療法も多数あります。治験は大学病院等の限られた施設でしか行うことが出来ませんので、治療選択肢の限られている進行期肺癌患者さんに対して近隣の病院には無い治療機会を提供するという点で大学病院の担う重要な役割の1つと考えております。

基礎研究

臨床研究は新たな治療法の効果を検討する直接的な研究になりますが、そこに至るまでには基礎研究の積み重ねが必要になります。また日常診療や臨床研究を行う中で新たに疑問点や解決すべき研究課題が生じてきます。我々は、数多くのまた最新の臨床研究を行う中で生じた研究課題を基礎研究に落とし込み、その結果を臨床に還元することを目的として基礎研究を進めております。2023年度の肺癌研究室には、計8人の大学院生が在籍しております。獲得した公的資金をもとに、免疫チェックポイントの発現制御機構、がん遺伝子の制御機構、腫瘍溶解性ウィルスを用いた胸部腫瘍に対する新規治療開発などをテーマに基礎研究を行っております。

事業名 役割 課題名
科学研究費助成事業
基盤研究(C)
2021年度〜2023年度
研究代表者
田中謙太郎
Hippo経路分子MOB1に着目したEGFR変異陽性肺癌の新規標的治療法開発
科学研究費助成事業
基盤研究(C)
2021年度〜2023年度
研究代表者
岩間映二
EGFR遺伝子変異陽性肺癌における抗体薬物複合体の作用機序に関する研究
科学研究費助成事業
基盤研究(C)
2021年度〜2023年度
研究代表者
米嶋康臣
免疫チェックポイント分子リガンドを制御するmiRNAを用いたバイオマーカー開発

呼吸器内科医を目指す先生方へ

2000年代前半のドライバー遺伝子変異EGFR発見と2010年代の免疫チェックポイント阻害剤の登場により、進行期肺癌に対する個別化医療及び免疫療法は急速に発展してきました。しかしながら肺癌領域にはいまだ広大な未開の荒野が存在しています。進行期肺癌治療の更なる成績向上には、臨床/基礎両面を理解し、「分子の眼で臨床を語る」「基礎研究で得た知見を臨床開発に繋げる」ことが出来る、physician scientistの存在が不可欠です。我々肺癌研究室は、地域で活躍できる、そして世界でも戦えるphysician scientistとなることが出来る道筋を示します。ぜひ肺癌研究室の門をたたいてください。