研修・入局案内

留学について

留学記

柳原豊史先生

[所属]
CANADA: McMaster University, Firestone Institute for Respiratory Health
[専門分野]
びまん性肺疾患、間質性肺炎

2017年8月よりカナダのマクマスター大学にて、Martin Kolb先生のもとにpostdoctoral fellowとして留学しています。早くも2年が過ぎようとしているのは驚くばかりです。以前もご紹介しましたが、Martin Kolb先生は間質性肺炎の基礎と臨床の第一人者で、現在European Respiratory JournalのChief Editorを務めていらっしゃいます。

ラボメンバーは変わらず少人数ですが、2019年3月より新たにClinical fellowとしてIrelandから来たSy Giin Chong先生が、外来のない日を全て研究にあてており、実質post-doctral fellowとして働いています。大学院生のChandak Upaguptaは今年晴れて医学部に入学が決まり、更には7月にPhDの学位を無事取得し卒業しました。まるで自分のことのように嬉しかったです。(学位審査はなかなかハードでした!)一番の変化は、私の下に大学生が2人ついて、指導を行うようになったことです。1人は週に2日、1人は毎日フルで参加しますので、自分の実験も並行しつつ、2人の学生の研究計画を立てて指導をしています。始めはピペットの使い方から教えなければならず、ただひたすら時間を取られていましたが、最近では一部の実験に関しては、実験計画を立てておけば、ある程度信頼できるデータを出せるようになってきました。また、研究自体も予想外のデータが出てきて、始めは結果の解釈にずいぶん頭を悩ませましたが、最近は学生と毎週出てくるデータを楽しんでいます。2人とも、研究室配属延長を希望してくれて、かつ1人は修士課程にも残る決意をしたようです。単調作業が多くても、少しでも研究の楽しさを感じてもらえたのかな、と思います。うまく英語で表現できてないでしょうが、きっとはしゃいでいる姿はバレているのかも。カナダの学生を指導するという経験は、当初かなりのストレスでしたが、拙い英語でいかに技術や考え方を伝承するのかという良い訓練になりました。

ラボの現状ですが、昨年もご報告したように、基本的に自由で、全て自分の判断で実験計画を立て、遂行しています。ボスとの定期的なミーティングはないので、ある程度研究が進んだ段階でプレゼンする(3ヶ月に1回くらい?)という状況は相変わらずです。

私に与えられた主テーマとしては、間質性肺炎と肺高血圧の分子連関の解明とその治療戦略です。特発性肺線維症に肺高血圧症が合併すること、また合併した場合は予後が極めて悪くなることはよく知られており、新たな治療戦略が求められています。大変有り難いことに、この研究プロジェクトで今年の4月に大型予算を獲得することができ、ある程度安心して研究を遂行することができるようになりました。我々の用いているラット肺線維症モデルは肺高血圧症も合併することが分かっており、このラットモデルを用いて肺線維症進行の各段階における肺血管構成細胞(血管内皮細胞・血管平滑筋細胞)におきている性質変化を同定、その鍵となる分子を標的とする治療で肺線維症と肺高血圧をともに改善させるという結果を得ることができました。ヒトの特発性肺線維症でも同様の分子機序が起きていることは探索的実験で確かめており、現在更にFISH法を用いて定量化し臨床データと関連付けることができないか検討中です。また、全ての特発性肺線維症患者に肺高血圧症が合併するわけではなく、遺伝的脆弱性が存在するのではないかと仮設を立て、現在移植肺検体を用いたwhole genome sequenceを開始しました。これで遺伝的脆弱性が同定できた場合は、将来的な個別化治療戦略に利用できるのではないかと考えています。
その他、特発性肺線維症に対して臨床試験が現在進行中の、第2相で良好な成績を収めているPBI-4050(脂肪酸受容体作動薬)、FG-3019(抗CTGF抗体)を使用した基礎研究にも携わっており、企業とのコラボレーションのやり方も学んでいます。また、予想外のデータから派生した研究テーマとして、肺胞における幹細胞の増殖・分化制御機構の研究も行っています。
業績としては、この1年間で特発性肺線維症の臨床試験に関してと、基礎科学研究で得られた知見についての2本の総説を出すことができました。現在は間質性肺炎の研究モデルについての総説を作成中です。また、有り難いことに、ERS主催の学会でDistinguished Poster Awardを、また当施設のPost-doctral fellowship Awardを受賞することが出来ました。
生活面では、家族は完全にこちらの生活に馴染んでいます。娘は完全にCanadianで、家庭内でお互いの言っていることが時に分からない状況です。息子は週3回daycareに通い、相変わらず裏庭でバッタを集め、夜は私と地下室でチャンバラごっこをして喜んでいます。私は、家のすぐ裏にある教会で週1回バドミントンを地域の人がしているのに4月に気づき、それ以降なるべく参加し始めました。でも古傷の膝が傷んだり、ふくらはぎの肉離れを起こしたりと、大学生の頃の体ではないことを思い知っています。
最後に、快く送り出して頂いた、中西先生をはじめ、同門の皆様に感謝申し上げます。来年度帰国した際は、少しでも自分の経験を皆様へ還元し、また海外との架け橋となるべく尽力する次第です。今後とも引き続きご指導宜しくお願いいたします。
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