診療グループ

感染症グループ

業 績

臨床

肺は呼吸を介して外界と通じており、病原体が侵入しやすく感染症が起こりやすい臓器です。また、細菌、真菌(アスペルギルスなど)、抗酸菌(結核、非結核性抗酸菌症)、ウイルスなどの多彩な病原体が感染し得る臓器であり、感染症の原因菌の診断に苦慮することも少なくないです。血液検査・尿検査を利用した病原体診断や気管支鏡による検体採取を行ったのちに治療を導入させていただきます。
最新のガイドラインや最新の治療薬に基づいた治療を提供しつつ、年余にわたる治療が必要な疾患もあり、副作用の有無にも注意しながら診療にあたっております。

臨床研究

九州中央病院で行われた呼吸器ウイルスの流行状況の後向き研究を共同で解析し発表しました(Yamashita S, et al. Microbiology Spectrum. 2023; 11(2) : e0416222.)。SARS-CoV-2、Rhino/Enterovirus、パラインフルエンザウイルス3、季節性コロナウイルスなどが検出されたものの新型コロナウイルスパンデミック前の主要なウイルスであったインフルエンザウイルスやRSウイルスの検出がなく、検疫やマスク着用などの影響が示唆されました(図1)。

<図1>

呼吸器ウイルスの検出割合と検出ウイルスの内訳

また、九州大学病院内での新型コロナウイルス感染発生を防ぐために行っていた入院時のコロナウイルスPCR検査の有用性を検証する後向き研究も進めております。

基礎研究

感染症研究室では新型コロナウイルス感染症の基礎研究に主に取り組んでいます。新型コロナウイルスのSpikeタンパク質(ワクチンに含まれる成分)を発現する組換えvesicular stomatitis virus(VSV)という系を利用して本物の新型コロナウイルスを利用することなく安全に新型コロナウイルスのSpikeタンパク質の評価ができる系を開発・報告(Ikegame S, et al. Nature Communications. 2021; 12(1): 4598.)しました。
この研究では2021年当時に接種が進みつつあった新型コロナウイルスワクチンの変異株への有効性を検討し、特定の変異株では有効性が減弱することを明らかとしました(図2)。

<図2>

ワクチンの効果の評価系の確立と変異株での中和抗体価の確認

現在はこの系をさらに改変し、ウイルスの自立増殖能を完全に欠損させ、安全性をさらに高めた形で研究できることを目標としております。
また、新型コロナウイルスの治療として抗体製剤が以前は使われておりましたが、現在は変異株出現のため効果が期待できず使用されておりません。私たちは変異に影響されない抗体に替わる新規治療方法の開発にも取り組んでおります。具体的には新型コロナウイルスがヒトに感染する際に利用する結合しなければならない宿主の表面タンパク質であるACE2という分子を改良し、ウイルスを中和する抗体の替わりとして利用するものであります(図3)。既に他の研究室で報告されているものでありますが、ACE2に変異を導入しより中和活性を高められないかという発想のもとに研究を進めております。

<図3>

ACE2を利用した新型コロナウイルス新規治療の概要
事業名 役割 課題名
科学研究費助成事業
研究活動スタート支援
2022年度~2023年度
研究代表者
池亀聡
ワクチン感受性低下を来しうるSARS-CoV-2新規変異株の予測

呼吸器内科医を目指す先生方へ

優れた抗菌薬により肺炎治療は容易となった側面もありますが、通常の抗菌薬が効かない特殊な病原微生物など、呼吸器感染症の診療は奥が深いです。新型コロナウイルスをはじめとした新興感染症も多く、話題・研究内容も非常に豊富です。呼吸器感染症を共に極めたいと考える先生方をお待ちしております。

感染症グループ 2024年4月 医学部百年講堂前にて