研修・入局案内

留学について

留学記

坪内和哉先生

[所属]
CANADA: McMaster University, Firestone Institute for Respiratory Health
[専門分野]
間質性肺炎

私は2021年2月から1年間カナダのMcMaster大学へ留学しておりました。Principal investigatorのMartin Kolb先生は、間質性肺疾患の研究領域における世界的第一人者であり、外来診療をされながら研究室を運営されております。私はこれまでの臨床経験の中で、最も興味を持った疾患である間質性肺炎の研究に従事させていただきました。

McMaster大学はカナダ中東部に位置するオンタリオ州トロント近郊のハミルトンという街にあります。日本人には聞き馴染みのない街かもしれませんが、ハミルトンはカナダの人なら誰でも知っているカナダ最大のファーストフードチェーンである「Tim Hortons」発祥の地です。Tim Hortonsは1964年に創業のドーナツチェーンで、Timy’sの愛称で親しまれています。コーヒーも安く、街を歩けば数mごとにTimy’sのカップを持った人とすれ違うこともざらです。かく言う私も毎日の昼食はTimy’sのサンドイッチとコーヒー、実験の疲れの癒しにはドーナツを食すほどお世話になりました。呼吸器科を選び臨床に没頭する中で、まだ十分とは言えない治療法しかないびまん性肺疾患という分野に興味をもった私ですが、働き始めた当初は自分がこの先研究に従事し、ましてや海外に留学するなんて考えてもいませんでした。働く中で得た良縁が、次から次へと繋がってカナダにたどり着いた感じです。
McMaster大学での研究は、初代培養細胞やラット、移植肺からの検体を使用し、間質性肺炎と肺高血圧症の病態解明を目指すものでした。日本での大学院時代にも行っていた手技が中心でしたが、試薬の場所から器具の使用法まで英語を用いて切り開いていかなければなりません。最初のころは、緊張して聞けない、聞いてもよくわからない状況でしたが、親切な仲間に囲まれ、徐々に環境に慣れていくことが出来ました。コロナの影響もあり研究室内では対面で話が出来ますが、カンファレンスなどはオンラインで行うことが浸透しています。オンライン会議の難しさもありますが、簡単に離れた他の研究者とディスカッションが出来、時にはコラボレーションへ発展し、距離の垣根が非常に短くなったことを感じました。
ボスのMartin先生は、詳細なリクエストはせず、私の計画した研究を受け止め、背中を押してくれる指導者です。最初はやっていけるか不安でしたが、不思議なもので「Good!」といわれるだけで、力が湧いてくるのです。自ら実験を計画し、自らコラボレーションをお願いし遂行する。そういった経験が自分を成長させてくれたと思います。また一緒に働く学生たちからも多くのことを学ぶことができました。カナダの教育は小さなころから弁論形式が多いようで、学生たちはプレゼンテーションが非常に上手いのです。自分の意見を述べる際には熱意と自信をもって行い、また相手のプレゼンテーションに対してもポジティブな意見を述べる能力が非常に高く、刺激になりました。これまでに出会ったことのない恩師と環境に身を置けて、新たな引き出しが増えた気がします。
私生活の面では、緊急事態宣言中は市内の至る所にある公園巡りをして、その緑豊かな自然の中で週末を過ごしていましたが、幸いオンタリオ州も7月から本格的に経済活動が再開されたので、カナダライフを充実させる上で重要な短い夏を充分に謳歌することができました。自宅から車で1時間のナイアガラの滝には月一で通ったり、念願のメジャーリーグを観戦したり。五大湖の一つであるヒューロン湖の美しさには本当に感動しました。あっという間に夏が終わり、想像を超えたカナダの本格的な冬も経験しました。気温-20℃を下回る世界は、九州生まれ九州育ちの我が家にはなかなか酷でしたが、凍った湖の上を歩くことや、クリスマスマーケットを楽しんだりと何から何まで初めての体験にあふれていました。家族も海外生活に慣れ、デイケアに通った息子に外国人の友人が出来たことは本当に財産だと感じています。
留学生活の大変さにコロナ禍が加わり、苦労もありましたが、この経験は私にとって非常に大きなものと感じています。海外留学なんてこれっぽちも考えていなかった私をこの地まで誘ってくれたこれまでの良縁に感謝し、ここで得た出会いをこれからも大切にして呼吸器科医としてさらに精進していく所存です。若い先生や研修医の先生方、このページに目を通してくださったのも、何かの縁です! ぜひ我々と一緒に呼吸器疾患の克服にむけて歩みましょう。その歩みの中に留学の選択肢もぜひとも加えてみてください!
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