診療グループ

びまん性肺疾患

業 績

臨床

「びまん性肺疾患」とは胸部レントゲンや胸部CT画像において、病変が両側の肺に広範に広がった肺疾患を言います(図1)。その中で、主に肺の間質を炎症や線維化病変の場とする疾患を間質性肺疾患といい、特発性間質性肺炎、サルコイドーシスといった指定難病や、膠原病に伴う間質性肺炎、過敏性肺炎、そして抗がん剤などの薬剤による薬剤性肺炎などが含まれます。人口動態統計において、肺がん、細菌性肺炎に続き、間質性肺炎も全体の上位死因に含まれ、決して稀な病気ではありません。画像所見のみでは確定診断に至ることは難しく、問診・血液検査や気管支鏡検査などを行い、適切な診断・治療を行うことが重要です。当科でのカンファレンスや病理診断科・放射線科との検討会、膠原病内科や皮膚科へのコンサルテーションを通じ適切な診断ができるように取り組んでいます。さらに2023年8月から気管支鏡検査を用いて大きな肺組織を採取するクライオバイオプシーでのクライオ生検を開始し、更なる診断の向上に努めています。
治療に関しては最新のエビデンスを反映した最適な治療を患者さんに常に提供できるよう日々の診療にあたっています。加えて、この疾患群には難治性疾患が多く、十分な治療法が確立しているとは言えませんので、新規治療開発に積極的に携わって少しでもよい治療機会を患者さんに届けられるようにしています。

<図1>

様々なびまん性肺疾患

臨床研究

福岡県下4大学とその関連病院、計29施設によるネットワークを形成し、特発性間質性肺炎、COPDの慢性呼吸器疾患 1000症例を集積して前向きコホート研究を行っています(Respir Investig. 2020; 58: 74-80)。5年間の観察期間を終え、昨年特発性間質性肺炎患者528例の5年フォローアップデータを報告いたしました(BMJ Open Respir Res. 2023; 10(1): e001864.)。特発性肺線維症と比べ、特発性肺線維症を除く特発性間質性肺炎の予後は良好であることは知られていましたが、本研究では間質性肺炎の死因として重要な急性増悪の発症頻度に関して、特発性肺線維症とそれ以外の特発性間質性肺炎で同等であることが明らかになりました(図2)。

<図2>

福岡肺の生活習慣病前向きコホート研究

COPD症例についても現在論文投稿中であり、今後も本コホートから多くの解析結果を報告していく予定であります。
また特発性肺線維症や進行性線維化を伴う間質性肺疾患は予後が悪性腫瘍に並ぶほど悪く、少しでもよい治療法の開発が求められています。そこでPPF(progressive pulmonary fibrosis)に対する治療法の新規エビデンスの構築のため、医師主導特定臨床研を究実施しています。

試験名 研究代表医師・事務局
未治療Progressive pulmonary fibrosisを対象としたニンテダニブ・抗炎症治療同時導入療法の第Ⅱ相試験(TOP-ILD) 研究代表医師:岡本勇
研究事務局:坪内和哉

基礎研究

間質性肺炎への治療薬はまだ十分ではなく、更なる病態解明と治療法の開発が求められています。当研究室では、細胞・動物モデルを扱う基礎研究から、主にヒトを対象とした臨床研究へとつながるトランスレーショナル研究を目指しています。2024年度のびまん性肺疾患研究室には4名の大学院生が在籍し、細胞・動物モデルを用いて気道上皮細胞の分化や増殖、障害をうけた線維芽細胞の除去メカニズム、肺高血圧症の進展に関する病態解明および新規治療法の探索といったテーマで、間質性肺炎の病態解明に取り組んでいます(図3)。

<図3>

ヒト初代気道上皮細胞を用いた研究

また、臨床検体を用いた研究としては、間質性肺炎患者さんの気管支肺胞洗浄液を、マスサイトメトリーという新しい方法を用いて解析して、間質性肺炎の発症や進展に関与する特異的細胞集団の同定に取り組んでいます(Front Immunol. 2023 Mar 6;14:1145814.)。

事業名 役割 課題名
科学研究費助成事業
若手研究
2023年度~2025年度
研究代表者
坪内和哉
特発性肺線維症および合併高血圧症における血管内皮細胞の細胞老化の役割の解明
科学研究費助成事業
研究活動スタート支援
2023年度~2024年度
研究代表者
髙野智嗣
マスサイトメトリーを用いた線維化を伴う間質性肺炎におけるマクロファージ集団の検討

終わりに

間質性肺炎は多岐にわたり、病態もまだ十分分かっていないため、診断や治療もまだまだ発展途上です。逆に言えば、これからまさに発展していく領域(Blue Ocean)だと確信しています。びまん性肺疾患に興味をお持ちの先生は、是非一緒にやっていきましょう!あなたに出会えることを楽しみにしています!

びまんグループ 2023年4月 医学部百年講堂前にて